パトラッシュってどんな犬?
パトラッシュってどんな犬?どうしても日本人には1975年に放映されたアニメーションの影響が強く実際の犬を見ると想像とは違って違和感を感じる人が多いようです。実際
私もどんな犬なのかベルギーに訪れ Bouvier des Flanders(ブービエ・デ・フランダース)を見た時はその個体の大きさと、紹介してくださったブービエが懐いて寄りかかろう
とした時にあまりに大きくて吹き飛ばされた記憶があります。そして犬小屋には沢山の "黒い"ブービエ達がいました。
私はブービエを直接見る機会に恵まれた為、ベルギーで犬種が検証された結果のみを知り何故ブービエ・デ・フランダースになったのかあまり気にしていませんでした。しかし
物語の背景を知る事はとても楽しい事です。現在ブービエ・デ・フランダース以外の犬種以外で「パトラッシュはこれです!」といった犬の情報はありません。では何故パトラッシュ
はブービエ・デ・フランダースと導かれたのでしょうか?
フランダースの犬の原文の中には犬種を簡単に特定する文章がありません。色が黄色(恐らく白っぽい色、若しくはクリームや薄い茶色)で耳がオオカミの様に立っていて頭は
大きく足は太い。と抽象的な表現がされているのみです。本文に幾つか年老いたパトラッシュに関する記述がありますが特に第二章にパトラッシュに関する事を作者ウィーダは書いて
います。
A DOG of Flanders yellow of hide, large of head and limb, with wolf-like ears that stood erect, and legs bowed and feet widened in the muscular development wrought
in his breed by many generations of hard service (フランダースの犬(パトラッシュ)は黄色く、とても大きな頭と足で耳はオオカミのように立っていました。またその大きな足は労働権として何世代も酷使されてきた為、筋肉がと
ても発達した足でした)
と、あります。この部分を読むと様々なイマジネーションにかきたてられます。中には耳の部分のオオカミという表現からオオカミみたいな犬と想像してしまう人もいるかもしれません。
あともう少し情報はないのか?!そう思ってしまったりもします。そこに一枚の貴重な挿絵があります。フランダースの犬の初版に描かれている一枚の挿絵。ルーベンスの絵の事を思い
巡らしているのか物思いにふけるネロにずっと横で寄り添っている老犬。この挿絵は初版の為ウィーダ自身がチェックした可能性が極めて高く関与したと想像出来ます。挿絵のパトラッ
シュは大きな頭に太い足、そしてオオカミの様な立った耳。全てが文章と一致するのです!
フランダースの犬の時代のベルギーではミルクを運ぶ機動力として動物が使われていました。お金のある人は馬を使い馬を飼うことが出来なかった人々は犬を使っていました。腕(足)力
のあるブービエ・デ・フランダースは荷車を体に固定しやすくする為に垂れ下がった耳を切っていました(現在ベルギーでは法律で禁止)そして尻尾も同様に切断され短い尻尾になって
いました。また現在ブービエの画像を見ると黒ばかりが多く存在します。実は今回教えて頂いた事なのですがブービエ・デ・フランダースは他の犬種と同様に白(黄色)、茶、黒、そして
それらが混じった中間色等があります。ところが現在ブービエ・デ・フランダースは飼い主に忠実な特性があり番犬としての人気が非常に高い犬種となっていて番犬として黒が最も人気
がありブリーダーによって沢山繁殖されてきた背景があるそうです。確かに警官の様な黒色の方が番犬には向いているのかもしれません。ですがあまりにも黒ばかりが増えてしまった為
従来からいたはずの白、茶が本当に減少してしまったようです。
まだ若い少年と年老いた犬
ウィーダの作風でよく見られる文法として2つの対比する存在があります。一方に光を当てもう一方に陰を与えその相反する差の大きさから光を更に目立たせる方法。まるでレンブラント
が陰と光の魔術師であるように文章で一方に光をあてもう一方には陰を与えその相反する差の大きさから光を更に輝かせる。そんな技法を良く使います。一方ではネロは若く才能のある少年。
一方パトラッシュは年老いて捨てられ死にかけたところ助けてもらった犬。そんな対比がされています。パトラッシュの設定が端正な顔立ちの犬であれば少年と老犬、そんなイメージには
ならなかったのでは?そう個人的には思ったりもしました。
また物語で重要な部分として死にかけたパトラッシュをネロが助けたという部分です。日本には捨てられ年間数十万の処分されてしまう犬猫が存在します。今の日本には犬種というよりも
この今命が不条理に途絶えようとしている命を救う事がもっと重要な事だと思います。生き物の売り買いやペットショップがエサ、備品以外での命のビジネスが成立してしまっている事の
方が問題かもしれません。もし今家族にパトラッシュの様な動物を求めるのであれば各保健所に今貴方の救いを求めている将来の家族が待っていると思います。一匹でも多くの命が救われる
事を祈らずにはいられません。
K.Oshima (C) 26/November/2011
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